〜すべては選手のために〜 日本ではネガティブに考えられる「移籍」 Vol.2

もう一つの問題。ヒエラルキーが常に同じであるということ

日本の育成年代のサッカー選手にとってもうひとつの大きな問題は、常に選手間のヒエラルキーが変化しないということだと考えています。勿論これも競争と深く関わることです。

例えばプロであるJリーグのクラブでも、育成年代では毎年選手を入れ替えることができません。ほとんどのクラブがジュニア年代(小学生)なら6年生まで、ジュニアユース(中学生)年代なら中学3年生まではクラブが選手をクビにすることはないという決まりを設けています。

セレクションに合格した選手は、これで一時はこのクラブで安泰で良かったと思うかもしれませんが、僕らが危惧するのはその先です。獲得した選手が16〜18名程度の場合、ほぼ最初にヒエラルキーが出来上がってしまいます。そこからは選手を外へ放出したり獲得してきたりということができないので、チーム内では小さな競争しか生まれません。そして競争力が落ちてくると「成長の停滞」を招きます。

前回Vol.1で書いた通り、「選手間の激しい競争が選手を成長させる」ならば、日々向上心を持って努力することが大事になるのですが、自分の立場を確保されると数年間は焦る必要がなくなります。
少しくらい手を抜いても、今持っている能力だけで試合の出場機会を得れるからです。そうすると日々の1回の練習や試合の質は下がってきます。

このようなシステムも、せっかく日本には小さい頃には素晴らしい選手がたくさんいるのに、大人になった時に海外で活躍する選手が先進国と比べて極端に少ない理由であると考えています。
学校単位での6-3-3というシステムにも問題があるかもしれません。

クラブが取組んでいること 〜クラブ内に競争を〜

クラブ間の移籍が難しい日本で、しかしその必要性を感じている我々は、レアッシというクラブ内でその競争原理を生み出すようにしています。
例えば、レアッシでは現在U-10(小学生)で育成コースに所属している選手は合計で40名ほどいます。その中でファーストからセカンド、サードチームと別れています。
そしてその中にはU-9(小学3年生)のファーストチームで活躍している選手が食い込んできます。

つまり50名近い人数でU-10の各チームの競争が起こっています。また、U-10のファーストチームで活躍している選手はU-11のセカンドチームへの枠を狙って競争しています。
U-11のセカンドチームの数名はファーストチームへの昇格を狙っています。
現在、U-11のファーストチームにはセカンドから3名追加招集され、新年度へ向けての可能性を探っています。

重要なのは「競争だけ」でなく、選手一人一人に目を向けた指導です。たくさん人数を集めて「這い上がった選手だけが重要」なのではなく、常に一人一人の選手が次のステップを踏めるようにスタッフは日々活動しています。常に選手が「少し難しいと感じれる場で学ぶ」ことが最重要で、誰が上へ上がったか?誰が落ちたか?ということではありません。

クラブが取組んでいること 〜選手一人一人へ目を向ける〜

そのためにコーチたちは毎週行われるたくさんのカテゴリーの試合をマッチレポートととして残し、選手一人一人の試合の出場時間や、どのカテゴリーで試合に出たか、最近の課題は何か、どのような状況か、そして試合後の1週間のトレーニングをどのように組むかに全力を注いでいます。

以前も書いたファーストチームだけが優遇されるような環境はレアッシには一切ありません。なぜなら、選手がどこに所属しているかというのではなく、「その選手が次のステップを踏むにはどうしないといけないか」に焦点をあわしているからです。

そして当然、上がったり下がったりすることは多々あります。それはコーチたちが「意図的」に行っていることで、常に天狗にならないように、下がってもチャンスがあるようにと考えているからです。

クラブ間での「移籍」が難しくても、クラブ内のカテゴリー分けによる移籍を繰り返すことで、選手間に競争が生まれ、そのプロセスの中で「勝者のメンタリティー」を獲得し、常に次のステップを踏めるために学べる場を提供しています。

変化がないということは「停滞」を意味することだと思います。

レアッシは常に世界をイメージして、海外の異なる環境や考え方、それを日本化することで、そして日本の良さを生かして、もっともっと日本人の選手が世界で活躍できるような環境を育成年代の底辺から実現したいと考えています。

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■『日本の育成年代における様々な問題を考える』
○目次
はじめに〜「育成年代に必要なことを理解している指導者は少ない?』 移籍、リーグ戦、8人制、試合時間など」
◇01:「リーグ戦文化の必要性」
・01-1:「リーグ戦方式とトーナメント方式の違い、長期リーグ戦とは何か?」
・01-2:「スペインで行われている長期リーグ戦と日本のジュニア年代の環境の比較」(対談:坪井健太郎×レアッシ福岡FC 吉廣)(coming soon..)
◇02:「試合時間について」
・02-1:小学生で20分、15分ハーフはあまりにも短すぎる。それはサッカーではない。なぜサッカーではなくなるか?!
◇03:「大人のサッカーと子どものサッカー」
・03-1「大人のサッカー」について考察する
◇04:「サッカーにおける反則とは何か?」
・04-1「ファールすることは悪い事」と決めつける指導者
◇05:「小・中学生の移籍について」
・05-1:「すべては選手のために」 日本ではネガティブに考えられる「移籍」 Vol.1
・05-2:「すべては選手のために」 日本ではネガティブに考えられる「移籍」 Vol.2
・05-3:ジュニア年代の移籍に関して問題解決へ!

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この記事を書いた人

□スペインサッカー指導者ライセンス レベル1
□選手歴 筑陽学園サッカー部卒
□指導歴
2007-現在 レアッシ福岡FCジュニア,ジュニアユーススタッフ
2009-12 FCバルセロナ オフィシャルスクール福岡校コーチ
2015-2016 スペインバルセロナ在住
2015-16 UE CORNELLA Juvenil B 研修(バルセロナ)

サッカーコーチが学べる情報サイト『ジュニアサッカー大学』を運営