劣悪なサッカー環境。日々現場に立つと感じるもの

育成年代の『サッカーを取り巻く環境が劣悪だ』と感じている人はどれくらいいるのでしょうか?
(最初の写真は僕がバルセロナで住んでいたアパートから見える、地域の街クラブ「エウロパ」のホームグランドです。)

僕が携わっているジュニア(小学生)、ジュニアユース(中学生)、また福岡だけの問題かどうかは分かりませんが、『試合や練習時』において『環境が良くない』という感覚を持っている方が少ないのではないかという疑問、もしくは『感覚が麻痺している』のではないかという懸念、日々感じていることに共感してもらえるかどうかも分かりませんが書いてみたいと思います。

よくある風景すぎて、それに対して指導者や現場関係者から疑問や新しい解決策を提案する意見が極端に少ないことに『サッカー界の常識』が一般から見ると非常識なのではないかという疑問が残ります。
今回は環境の中でも『ハード』の面で考えてみたいと思います。

毎週末グランド横にテントを立てること

特にジュニア年代では週末の試合時には朝から夕方までといった長い時間現場に拘束されることが日常茶飯事です。そこでほとんどのチームが行うのが、グランド横にテントを立てること。
夏場の暑い日には日差しを遮り、また天気が悪い時には雨よけするためには必須です。
レアッシの場合は選手とコーチで行いますし、状況によってはバスを利用するのであまりテントを立てませんが、毎週末グランド横にテントを準備しなければならないこと、これに疑問を持っている人は少ないのではないかという印象を持っています。
公式戦だとたくさんのチームが集まり、たくさんの保護者の方が朝早くからテントを立て、いろいろお世話をしなくてはならない。
その労力はどれくらいのものでしょうか?

毎週末、コートの線を描いたりネットを張ったり…

人工芝は別ですが、クレイ(土)のグランドの場合、毎回石灰でラインを引かなくてはなりません。毎週末試合はあるので月に8回、同じ作業を繰り返しています。
グランドによってはポイントが打ってあるので楽な場所もありますが、サークル(円)などはメジャーで測って引かなくてはなりません。

毎回グランド整備をすること

クレイのコートなのでグランド整備をすることや、それを通じて選手に何らかの教育を行うことには価値があるかもしれません。
しかしそれに取られる時間は合計すると膨大な時間です。
レアッシの練習でもきちんとグランド整備をやらせます。しかし、これにより本来なら後15分練習できる部分を削らなくてはなりません。

雨が降ったらどうするのか? 〜雨に濡れて試合をして更に待つ〜

ジュニアの場合だと1日に1試合しか行わないというのは稀です。ですので、最初の試合時に雨が降ったら、きちんと乾かすこともできずに次の試合を待たなくてはなりません。これは当日のオーガナイズにも問題がありますが、子供の目線に立つと結構大変です。
試合をしている間にも自分のバックは濡れるし、試合後も着替えたりするのも大変です。普通の大人が試合をして、雨に濡れて更に2~3時間待って試合をするといった場合、『やっぱりサッカーは楽しいな』と感じることはありません。

雨が降った後は大変

福岡市内はほとんどがクレイ(土)のグランドなので、雨の日の試合は最悪です。前日降った雨が残っていて試合当日は朝から水を掃かせたり、石灰でラインを引くのもままならなかったり。
当日雨が降っても、試合の後は最悪です。
土のグランドなので場所によっては選手はドロドロ。シャワーがないのでなんとか着替えて車に乗って帰ります。レアッシではバスで移動しますが、雨の日の練習や試合の後ではバスはとても汚れてしまいます。バスの場合はクラブの持ち物なのでまだ良いですが、保護者の方の乗り合いできている場合はなかなか大変かもしれません。

夏場の試合時のベンチは…

夏のとても気温が高い時期、試合中のベンチは地獄です。選手を日陰で守るものがないですから当然ベンチの選手はたまりません。練習試合や場所によってはそこにテントを置くこともできますが、試合が終わればそれを動かさなければならないため、ほとんどの場合、日傘のようなもので対応するしかありません。

結論から言うと『スポーツを楽しんでもらうという感覚がない』

福岡市市内にあるクレイのグランドのほとんどが『ただ広い場所がある』だけの環境です。よく行くグランドをイメージしてもらえれば分かりますが、サッカーができる広い場所があって、そこに線を引いて、テントを張ったらサッカー場になるというものです。
しかし、日本の天候の場合、雨になる日はとても多いのですが、それに対応した環境はありません。

つまり、そこの会場に行ってサッカーを満喫して帰れるハードが整っていない、もしくはグランドを設計する側に『スポーツを楽しんでもらう』という感覚がないのかもしれません。

もし保護者の方がフィットネスクラブに行って、スタジオを使った後はモップや雑巾で床を掃除して帰ってくださいとか、プールで泳いだ後に、シャワーはありませんが外の吹きさらしの個室で着替えて帰って下さいという施設ならほとんど利用しないと思います。

具体的な例①『雁ノ巣』の場合

福岡市のジュニア年代がよく使う雁ノ巣。ほとんど人がイメージできると思いますが、その他グランドなどは、「ただの広い場所」です。
例えば朝の10:00から1試合目を行い、12:00から2試合目を行う場合。1試合目の試合途中で雨が降ってきたら選手は大変です。
ベンチには何もないし、着替えが入った荷物はどこに置いておけば良いのか。
雨が降り続いた場合、試合が終わった後の選手はどこで着替えてどうやって雨に濡れないように車に向かえばよいのでしょうか?テントをたたむ時に濡れない方法はあるのでしょうか?
風が強くてテントが張れない場合はどのように対処するべきか? 杭を打ったり重いもので抑えたり、みなさん工夫されると思いますが、ここで考えなければならないのは、サッカーの試合に来たのであって、『キャンプに来たのではない』ということです。
キャンプならそういう自然と対峙する中で楽しみも学びもあると思います。
しかし、大事な公式戦やスポーツを楽しみに来たのに、それ以外のことに集中しなければならないということが問題です。

具体的な例②『フットボールセンター』の場合

フットボールセンターの場合は雁ノ巣より快適です。そもそも人工芝ですので、土のグランドでプレーするより選手は気持ち良くプレーできます。
ベンチにも雨・日よけがありますので試合中の選手は問題ありません。
しかし、試合中の荷物はどうすればよいでしょうか?確か控え室を借りることができると思いますが、ほとんどのチームが利用していないかと思います。
なので、雨が降った時の選手の荷物はやはり自分達で張ったテントの下に置いておかなければなりません。雨が強くなって横雨が降れば荷物が心配になり、誰かが管理しないといけません。
仮に建物内の部屋を使うにしても、天然芝のコートも含めると、ジュニアで8コート作って大会を行った場合、試合をしているチーム16チーム、控えているチームが16チーム、1チームに16人選手がいるとしてた場合、控え室はおそらく機能しません。
前提として、選手が荷物を置いたりシャワーを浴びるように作られていないのが現状です。

そして、雨が降った後のシャワー。これも有料で借りれますが、スパイクを脱いで建物の中に入らなけばなりません。雨に濡れた後で靴を脱いでシャワー室に行けなければならない、そして着替えの荷物をどこかに置いておいてなど、とても不便です。
そもそもシャワーを浴びたい時点で、汗まみれなので靴を脱いで室内を汚さないように入って行くだけでも不便なのです。

これは動線計画といった設計者の問題なのか、現場をイメージできていないのか、いずれにしても『快適ではない』ということに帰結します。
暑すぎず晴れている日はまだ良いですが、そのような日は年間にどれくらいあるのか、雨が多い日本ならそれを前提に考えなければならないのに、こと屋外スポーツに関してはそういう認識がほとんどありません。

つまり使う側には、「グランドとはそういうもの」、提供する側にも「スポーツはそういうもの」とい感覚になってしまっているのが問題だと思います。

そうは言っても建築基準法の規制や行政が行うことだからしょうがない、と片付けたら進化しません。おそらくここの部分は行政と絡まない「大きな街クラブ」が何とかするしか今後の道はないのかもしれません。

スペインの例

僕が留学したスペイン・バルセロナ。今はほぼ全てが人工芝のグランドです。グランドの規模や形状によりますが、ピッチに横にはロッカールーム。そのままスパイクを履いて入れて、その中にシャワーがあります。つまり選手はピッチ以外では雨に濡れることも荷物の心配をすることもありません。といっても盗難の心配があるので控え室には鍵がかけられていますが、自分達もしくは保護者の方がテントを張ったり、監督・指導者がラインを引くこともありません。
保護者が観戦する場所も屋根があったり、とにかくそこに「グランドがある」だけでなく、それに付随する設備も充実しています。
日本と全く違うのは『バル』があるのも大きな違いではないでしょうか。
このような環境は街の小さなクラブでも、最小限のものがあるというのがスペインの環境です。

日本の方が経済的にも豊かですが、『スポーツ環境』というのはヨーロッパに比べて後進国であるというのが現状です。

日本サッカーとスペインは20年以上の差がある

以前書いたかもしれませんが、僕個人としては日本とスペインに限らずヨーロッパのサッカー先進国と比較した時に現在20年以上の差があると思っています。
確かに日本人で海外で活躍する選手は増えたし、以前よりヨーロッパのビッグクラブで活躍する選手も増えてきました。ワールドカップにも出場するようになったし、世界との差は縮まっていると考えている方も多いと思いますが僕は反対の意見です。

あらゆる意味で差は広がっています。
日本では今まさに『街クラブの文化』を作ろうとしていますが、その街クラブ全てが「人工芝のグランド」を持つのは何年後になるのか?
モウリーニョのように元プロ選手ではないものがS級を取得し、プロクラブの監督に抜擢されるような時代は何年後に来るのか?
選手の移籍が自由化したり、育成年代の指導者が試合の采配や成績によってクラブを首になるような環境が何年後にできるのか?
社会の優秀な人材がサッカー界に集まるような仕組みや魅力がいつ確立されてくるのか?

あと数年でヨーロッパと同じような環境ができるとは想像し難いです。
そういう意味では例えば、ジュニア年代では監督が審判をしなくていい、保護者の方がテントを張らなくていい、一見よくある光景が少しづつ変化し時に初めて、世界との差が少しづつ縮まってきている時かもしれません。

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この記事を書いた人

□スペインサッカー指導者ライセンス レベル1
□選手歴 筑陽学園サッカー部卒
□指導歴
2007-現在 レアッシ福岡FCジュニア,ジュニアユーススタッフ
2009-12 FCバルセロナ オフィシャルスクール福岡校コーチ
2015-2016 スペインバルセロナ在住
2015-16 UE CORNELLA Juvenil B 研修(バルセロナ)

サッカーコーチが学べる情報サイト『ジュニアサッカー大学』を運営