小学4年生に『戦術』は必要か ?! 〜練習メニュー公開 U-10〜

U-10の選手、小学4年生に『戦術のトレーニングは必要か?』。
これにはいろんな意見があると思います。

『小学生は個人技を伸ばすべきだ』『いや小学生から戦術を教えるべきだ』など。ここでいつも考えるのは『どちらが正しいか』という発想になってはいけないということです。

どちらも大事なのですが、選手の年齢や「ボールを扱う技術」(ボールの負荷)によってテクニック・戦術、それぞれトレーニングする『割合』が変わるというのが僕らの考えです。

同じ小学4年生でも「ボールを扱いがままならない(ボールを扱うこと自体が高い負荷)」選手の場合と、「テクニックレベルは問題ない(ボールを扱うことが高い負荷ではない)」選手では取り組む内容が異なってきます。

実は極端にいうと何でも良い練習メニュー

「練習メニュー公開」と題しながら反対の表現ですが、極端にいうと『練習メニュー』というのは何でも良い、と表現できるかもしれません。
(あくまで極端な表現ですが)

「練習メニュー自体が重要」なら、同じメニューを行えば誰が指導しても同じように選手が成長するはずですが、実際はそうはなりません。

そこには『指導者の能力』が深く関わっているからです。
僕ら指導者は「新しい練習メニューを探す」のではなく、「試合で起こる現象」を的確に捉えなければなりません。

コンテクスト(文脈)の中でも考える

また、選手のレベルやチームの状態、近いうちに行われる大会、半年後・1年後など。もしくはクラブがどのような選手を育成しようとしているか、といったことも練習メニューに影響すると思います。
今回は、僕が担当しているU-10(小学4年生)のファーストチームを題材に一つのメニューをピックアップしてみたいと思います。

文脈としては以下の感じです。

・このグループは「ボールを扱うテクニック」に関しては高い負荷はありません。
・ただ、ここ数ヶ月はテクニックや簡単なコンビネーションのトレーニング中心で「戦術的な要素は少なかった」
・近い大会でも戦術的な対応をしなければならない状況は起こりにくいと想定される
・但し、今後を見据えて「戦術的な対応」をしなければならない相手との対戦もある
・5、6年生時のことをイメージするとベーシックな部分に取り掛かる必要がある
・段階としては「頭を働かせながら(戦術的な意図)プレーする習慣」をつけさせたい
・守備の基本的な原理原則を学ぶ必要がある年代である

というようなことを踏まえて、現在取り組んでいる練習の一部です。

メニューの詳細

練習は「3×2のRondo(ボール回し)」でどこにでもあるものです。

・目的:「ボール保持に対する守備」
・内容:「プレス、インターセプト、予測」
・キーファクター:….

相手のボール保持、おそらく前進に対してのプレッシングや守備の基本となる要素になりますが、どのように誘導してボールを奪うかというのが目的です。

そのための「戦術的なコンセプト」としては、
「ボール保持者に対するプレスの仕方」
「後方の選手のポジショニングや予測、パスカット」
となります。

そしてこの「コンセプトを実行するために選手が考えなければならないこと、もしくは指導者が選手に学ばせる部分」がキーファクターになります。

前回書いたように、この「キーファクター」こそが生命線です。これがアバウトになると選手は成長しません。

みなさん、どんなキーファクターをいくつ思いつくでしょうか?

(おそらく、僕が経験して来た感じだと、この「キーファクターの詳細さ」の違いが日本とスペインの差の大きな部分の一つだと思います。)

役割の異なる2選手のキーファクター

①ボールホルダーにプレスをかける選手(aの選手)
・アプローチに行くときに、自分がマークを外した選手(B)へのパスコースを限定しながらプレスをかける。
・Bの選手がギャップへ動く可能性があるので寄せながら後方を見て、できるだけパスコースを切る。
・パスコースを切ることで終わらずに、切りながらプレスをかけ、可能であればボール奪取。
・プレスをかけた時にドリブルで外されないこと。
・この時、プレスをかける選手はファーストディフェンダーの役割になるので、最大の目的はボール奪取ではなく、パスミスを誘発すること。

②ゾーンで守る選手(bの選手)
・Bのギャップへの侵入を警戒しながら、Cへ出せれるパスに対してボール奪取を狙う。
(優先順位)
1.パスカット
2.コントールミス
3.ボールが収まったらプレス役に変わり①と同じ役割
・Cへボールが渡ったら味方のaがいる方向にパスを誘導する
・ポジショニングに注意すること。自分が狙うCの選手とボールが同時に見えるポジションを取る。
・どれくらいギャップを閉めるか。
・aの選手がAヘプレスをかけに行く時に、距離がある場合は中よりにポジションをとり、プレスがかかる度合いが強くなったら、Cの選手方向へポジションをずらす。

■戻るべきポジション
・プレスに行った選手はパスを出されたらすぐにギャップを閉じ(縦パスの警戒)、②と同じことを狙えるポジショニングを取る。

といった感じで「キーファクター」を10個くらい用意しました。この他にももっと考えられと思いますが。
全てを一度に伝えることは選手も混乱するので、出来具合や優先順位をつけて指導しています。

「キーファクター」が細かく設定されているのは、それこそが選手がサッカーの原理原則を理解するのに役立たせるためです。
また、これにより曖昧な指導はなくなり、選手のプレイをジャッジできるようになります。

例えば、ギャップにパスを通された時に、「ギャップをきれ!」とだけいうと選手は理解できず学べません。

刻一刻と状況が変わる中で、いつどこにポジションを取り、いつポジションを動かし、いつ何を考えるか、といった論理的な思考(それが無意識にできるようになる)は戦術を学んでゆく上ではとても重要です。

先日、U-16日本代表とスペイン代表の試合を他のコーチが分析しましたが、個々の技術では負けないものの、「戦術のレベル」に大きな差があると感じました。

「戦術」というとシステムや大まかなチーム戦術のように捉えられることもありますが、低い年代ではその年代に適した「サッカーの原理原則」を理解させることはとても重要だと思います。

 

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この記事を書いた人

□スペインサッカー指導者ライセンス レベル1
□選手歴 筑陽学園サッカー部卒
□指導歴
2007-現在 レアッシ福岡FCジュニア,ジュニアユーススタッフ
2009-12 FCバルセロナ オフィシャルスクール福岡校コーチ
2015-2016 スペインバルセロナ在住
2015-16 UE CORNELLA Juvenil B 研修(バルセロナ)

サッカーコーチが学べる情報サイト『ジュニアサッカー大学』を運営